都市へ!…より広い領域への飛躍

ためしに大正8年「住宅と都市」の講演会における佐野の発表「規格統一」をあげてみよう。

規格統一とは謂はゆるスタンダイゼ−ションの意味であります、即物の大きさ形等に一定のスタンダ−ドを作りまして之を以て成る可く多数のものを統一することを云ふのであります。規格統一は大量生産に對して必要なばかりでなく、物の分配、配分を有効ならしむる上に於て必要なものであることを信ずるのであります。…
都市の生活は密集生活である、小面積内に多数の人口を良好なる状態に収容しなければならないのであります。従つてまず此目的を達する為めに土地が最も有効に配分せられなければならぬ、又其の上に作らるる所の住居建築が此目的を達する為めに最も有効なる形を有せなければならぬと考へるのであります。…
…上流の住居のことに付ては今多く考ふるを要せずとして、中流以下の住居に就て考ふるに人間の生活は斯の如く千差万別なるを必要とするのでありませうか、…収入及び家族数等に応じて我々の生活法は之を数個に分類せらるるべきではありますまいか、即相当な大きさの二室を要するもの、或は三室を要するもの、又は四室を要するものと云ふがごとく各一の規格を以て統一せらるべきものではありますまいか。…
以上のやうな住居建築の規格はどういう条件を具備すべママであるかと考へますに、次の数項であると思ひます、即先づ建築に於ては、第一に間取は何種の職業に従事する人に對しても便利であるべきこと、謂はゆる融通性を有すべきこと、第二に各室は敷地方面の如何に拘らず光線空気の十分であるべき事、第三に構造が単純であって大量生産に最も便利であるべきこと、以上の数項が其主もなる点であると思うのであります、…佐野利器「規格統一」*1

注目すべき点が随所にあらわれてくる。規格統一は「大量生産に対して必要」であり、次に上流の住居のことについては「今多く考えるを要せずとして」、中流以下の住居に「かくのごとく千差万別なるを必要とするのでありませうか」と、混沌とした都市住居に対する規格統一の必要性を述べている。彼の都市住宅に対するヴィジョンはまず「小面積内に多くの人口を良好なる状態に収容する」ための有効な土地利用を図ることが必要で、そのための大量規格化住宅が論点となる。その方策として「借家」、「フレキシブルなプラン」、「充分な採光」、「量産可能な単純な構造」があげられている。
彼の提出した6畳2間の2階だて住宅の水平的に連続する様子は、何かそこらへんによく見かける少し古ぼけたような「公営住宅」のイメージそのままではないだろうか。

*1:『建築雑誌』390号、大正8年6月、p.45、46